情報配信日:2011年12月
私は偽電話占いをしていました
1990年代、Craigslist(1995年にアメリカで開発された求人情報などが掲載されたウェブサイト)ができる前に私は、Village Voice(バイト情報が載っている新聞)を手にして、週末働ける小遣い稼ぎの仕事を探していた。
当時私はまだ若く、怠惰で簡単に手に入るお金が欲しかった。新聞のページをめくると色々なバイトが目に入る。疑わしいバイトもあった。警備や風俗、性的なバイトをするほどの勇気は私にはなかった。ふと、電話占いの仕事が目に入った。これなら簡単にできると思った。
私は霊能力を持っていたのか?
いや、そんなわけない。ただ多少の演技はできるかもしれない。私は面接の準備をした。
テキサスの女性から電話がかかってきた。そして持っている’特殊能力’についていくつか質問を受けた。電話の後ろでは子供たちが騒いでる声が聞こえてきた。
「今までに霊能力者として仕事をしたことはありますか?」その女性は尋ねてきた。「やめなさい、ブリトニー!すみません今日は家に子供がいて..」
「はい、私はパーティーの余興の一環として占いをしていました。」
私は嘘をついた。
「それはタロットカードや動物カードを使用した占いですか?」
「基本的なタロットカードのみです。」
実際、私はタロットカードなど持っていなかった。まして使い方も知らない。動物カードにいたってはそんなものがあったのも知らなかった。
「ちょっと試しに占いを実演してもらえますか?」
「タロットカードを持ってきますね。」
私は近くにあった本に手を伸ばし、それを受話器の近くに持っていき、本のページをめくる音を出して、あたかもタロットカードをシャッフルしているように思わせた。私は適当に女性の占いをした。(丁度、手にもった本は占星術に関するものだった。)
どうやら女性は、私がした占星術占いを気に入ってくれたらしく面接に合格したのである。ファックスで仕事に関する情報が送られてきて、翌週からバイトを始めることになった。
「あなたはこれから私たち ‘能力者’ の一員です。」
仕事の代表者にこう言われたときは、正直わくわくした。
その人は、ジャマイカ生まれの予言者ということになっていたクリーオという名前の人だった。
「ほとんど人はクリーオさん目当てに電話をかけてきます。クリーオさん目当てで電話をかけきた人には、クリーオはコーヒー休憩中だとか、クリーオは別の人と話しているなどと言いましょう。ここにはいない、ということは決して言わないように。」
ある女性にこうアドバイスされた。
「電話の最初の2分間は無料です。お客さんは、できるだけその間に色々なことを聞こうとしてきます。あなたはできるだけ長く電話をつなげるように努めてください。1つの電話の平均通話時間が非常に重要です。占いを工夫すればその平均時間を伸ばすことができるでしょう。平均時間を延ばせば、さらなる電話があなたの固定電話へと優先的に転送されるようになります。」
分給数百円などとは程遠く、分給わずか(約)15円であった。しかもこれは電話をつないでいる間だけで、それ以外の場合分給は発生しない。1時間電話をつなげたと仮定して、時給900円。
平日やっている仕事をやめて、電話占いの仕事一本でいくことはできなそうだった。ただ、最低限小遣い稼ぎにはなりそうだったので、仕事を続けていくことにした。
フリーナンバーでかけて仕事に出勤の旨を伝え、シフトを入れる。仕事の受付の人は、私が仕事に入れる日にお客を集めてくれる。本来は、仕事をする前の数時間は ‘いつでも電話にでれる状態’ にしておく必要があったのだが、私はそれ関係なしに1日いつでも好きな時間に働けることになっていた。いつか代表のクリーオさんの信頼を勝ち取れる自信があった。
最初の仕事日で、私はわくわくして電話を待ちながら椅子に座っていた。私は’セリーナ’という占い師名をつけた。(クリーオさんと似ている名前をつけることはNGであった。)
45分くらい経って、ようやく電話が鳴った。
「2分間だけ話したいです。」
女性は必死になってそう言った。いわゆる無料時間だけ使いたい人である。(私にはそのお金の分も入ってくるのだが)
「私の彼氏が来月、仮釈放されるのかどうか知りたいんです。」
「タロットカードを見ていきますね。」
もちろん嘘である。
「どういう理由で刑務所にいるんですか?」
「銀行強盗です。」
「その場合、すぐに仮釈放されることは無理でしょう。」
女性は丁度2分経つと電話を切った。(30円ゲット!)
45分ほど経って、次の電話がかかってきた。
「どんな用件でしょうか?私があなたを正しい道に導きます。」
電話をかけてきた女性にこう言った。
「真実の愛っていったいどこにあるんですか。いま私には彼氏がいるのですが、彼氏がどうやら浮気をしているようなんです。どうやら見知らぬ女性と頻繁に連絡をとっているようで..」
(こんなことで電話を..男性が知らない女性と連絡をとるなんてよくあることじゃない。)私は初め心の中でそう思った。
「彼はクラブでDJをしているんです。ある晩、彼の家の前に赤い車がとまっていたんです。どうやらその車は彼と一緒に働いてる女性の車のようで..」
「非常に申し上げにくいんですが、あなたの彼氏は明らかに浮気をしています。彼氏を叱るか、彼氏と別れるべきでしょう。あなたの彼氏は遊び人です。」
その電話の女性は泣き出して私にお礼を言うと電話を切った。(75円ゲット!)
5分経つとまた電話がかかってきた。
「クリーオさんですか?」
「クリーオは休憩中です。私で良かったら力になれますよ。」
ガチャ。(15円ゲット!)
その後、1時間ほど電話がなく退屈したので、その日の仕事は終えた。儲けは120円。
初日の仕事を終えて、私はポジティブを保つことに努めた。私は霊能力者でもないのに良くやった方じゃない。最初の無料2分間でお客さんにインパクトを与えることはできなかったけど、初日なら仕方ない。次からはなるべく、電話をより長くつないでもらえるように頑張ろう。
私はそう自分に言い聞かせた。
電話をかけてくる人の98%は半分狂ってる人、泣き叫んでいる人だった。
泣いている人を電話に長くとどめておくことは簡単だ。
そういった人はまず、自分の’情報’について長く語ってくれる。占い師(本物、偽者関係なく)に占いを頼むときは、まず自分の’情報’について詳しく述べるだろう。それと同じである。色んな情報を喋ってくるので、全部覚えきれないことすらある。何歳、家族は何人いるか、過去のトラウマは何か、仕事は何をしているか、好きなことは何か、嫌いなことは何か、などなど..
DJの彼氏がいる女性に、あなたの彼氏は浮気してますよと言った。これはなぜかというと、その女性は’プロ’の断言がないと彼氏の浮気を信じれないだろうと思ったからだ。
おそらく女性は彼氏の浮気に気づいていたのだろう。ただ心のどこかでそれを信じなくなかった。それで私に電話をかけてきて ‘救い’ を求めたのである。
ある女性は自分が太っていることを心配して電話をかけてきた。
私は、
「日々の食事週間を改善する必要があるでしょう。そうすればきっと体重を減らすことができます。」
ごく当たり前のことを言っただけである。この電話150円ゲットした。
ある男子大学生は、自分の好きな女の子が電話に出てくれなくなった理由を知りたいといって電話をかけてきた。
「その女の子はあなたに興味がないだけよ。でも大丈夫。半年以内に、その女の子よりももっと良い女の子が見つかるわ。」
要約するとこうであるが実際この電話は長くて、過去最高300円をゲットした。
私はもちろん霊能力者ではなかった。電話をかけてくる人には、お世辞などを使って機嫌をとるようなことはせずに、周りの人が言うのを嫌がるかもしれない現実を与えるようなこともはっきりと述べた。実際、私にはそれを言ったところで失うものもないのである。
フロリダの女性が電話をかけてきた。
「こんにちは、よろしく。」
珍しくもその女性はいたって普通の女性な気がした。今まで受けてきた電話と全く違って、ごくまともな雰囲気であった。
「夫が生きてるのかどうか知りたいんです。ここ数ヶ月行方不明で連絡もつきません。警察に連絡しましたが、いまだに解決してません。」
私の胃は痛んだ。こんな電話を今まで受けたことがなかった。
「あなたの旦那さんがどこにいようが、旦那さんは安全な場所にいます。旦那さんはあなたの近くにはいなくても、いまだにあなたを愛していますよ。」
「はい..で夫は生きているんでしょうか、死んでるんでしょうか?」
「分からないです。」
私は電話を切りたかった。けどできなかった。それはクリーオさんの決まりに反するからだ。
「生きてるの死んでるのか正直私には見えません。ただ、どこか安全な場所にいるのが分かります。」
「あなたには霊能力があると思って電話をかけたのですが..こうした電話占いに電話をかけると決まって満足いく回答が得られません。私の娘が電話占いを使っていたんです。それで私も使ってみようと..いくつか電話占いをしましたが、夫について何も分かっていません。」
「さぞ辛かったでしょうね。旦那さんがいない苦しみ、悲しみを1人で背負ってきたんですね。どうでしょう、気分転換にマッサージやネイルサロンに行ってはどうですか?」
「そんなことより夫が生きてるのか死んでるのかを知りたいのですが!?」
女性はそう言うと電話を切った。(300円ゲット)
その翌週、最初のお給料を貰った。合計通話時間3時間ほどで、約2,800円だった。それに対し、クリーオさんの給料は7万円ほどであった。(推定)
電話占いの仕事は、決して楽しくもないし簡単でもなかった。最初は面白そうな仕事だと思った。
しかし仕事をしていくなかで、色んな人の深刻な悩み、生死に関わることを耳にして、私も徐々に正気を保つのが難しくなったのである。
私は仕事をやめ、別の楽に稼げそうな仕事を探した。少なくとも分給15円以上の仕事..テレフォンセックスの仕事はどうかな。電話越しに何かをするというのは電話占いのときと変わらないし、仕事の ‘汚れ具合’ も大して変わらないだろう..

本物の占い師の定義は曖昧ですが、相手の深刻な悩みに対面した時、人間は自分自身を騙す事はできないのですね。
これができる人間は正に詐欺師でしょう。
via:It Happened to Me: I Was a Bogus Phone Psychic – xoJane/Randi/ translated by sirokuma / edited by nao
口コミ