ピルビン酸脱炭酸酵素とは
ピルビン酸脱炭酸酵素はエネルギー代謝における解糖系によって産生されたピルビン酸を基質として用い、その脱炭酸反応を触媒することによってアセトアルデヒドと二酸化炭素を生成させる酵素であり、エネルギー代謝の回路を回転させるために重要な役割を担っています。
この酵素反応過程においてピルビン酸が一度酸化されることから、ピルビン酸脱炭酸酵素はしばしばピルビン酸デヒドロゲナーゼと言われることもあります。この反応においてはまずチアミン二リン酸が補因子とて用いられ、ステッター反応と呼ばれる触媒反応を介してピルビン酸を酸化し、それを足がかりとして脱炭酸反応が進行してアセトアルデヒドが生成します。
同様の反応がミトコンドリアのマトリックスに存在するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体においても用いられています。この場合においては脱炭酸反応の後、ジヒドロリボイルトランスアセチラーゼとジヒドロリボイルデヒドロゲナーゼの作用によってアセチルCoAが産生されると共に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが還元されてエネルギー物質であるその還元型が生成します。
このように、ピルビン酸脱炭酸酵素はピルビン酸の酸化反応を経て脱炭酸反応を促進し、アセトアルデヒド等価体へと変換することができます。アセトアルデヒドはアルコール代謝の過程で生じる物質でもあり、アルコールデヒドロゲナーゼによってエタノールに変換されます。ただし、人間の場合にはピルビン酸はアルコール発酵ではなく乳酸発酵の経路にのせられていくため、ピルビン酸脱炭酸酵素による脱炭酸反応を経ることなく嫌気呼吸が行われています。したがって、人間においてはピルビン酸脱炭酸酵素活性を有するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体のクエン酸回路における役割が重要であり、嫌気呼吸においてアルコール発酵を主に行う生物においてはピルビン酸脱炭酸酵素そのものの役割も恒常性を保つ上でとても重要であると言えます。
ピルビン酸脱炭酸酵素の役割
ピルビン酸脱炭酸酵素の生体内での最も重要な役割はアルコール発酵です。
解糖系によってグルコースを分解することによって生じたピルビン酸は、酸素が十分にある好気的な環境においてはクエン酸回路においてエネルギーに変換されます。この際には先に挙げたようにミトコンドリアのマトリックスに存在するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体により、ピルビン酸脱炭酸酵素の触媒する反応と同様の反応を経てアセチルCoAが産生され、これがクエン酸回路に取り込まれることによってオキサロ酢酸をクエン酸に変換し、回路を回転させて効率的にエネルギーを作り出します。一方、好気呼吸が行えない条件下においては嫌気呼吸が行われますが、その主要な経路がアルコール発酵です。
この場合には解糖系から生じたピルビン酸がピルビン酸脱炭酸酵素によってアセトアルデヒドに変換され、続いてアセトアルデヒドがアルコールデヒドロゲナーゼによってエタノールに変換されます。この過程において還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが消費されて酸化型になり、解糖系で必要とされる酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが供給されるようになります。嫌気呼吸のアルコール発酵では解糖系によるエネルギー産生が行われ、好気呼吸のようにクエン酸回路を経たエネルギー産生がないため、グルコース一分子あたりのエネルギー効率は低いものです。しかし、一連の反応に酸素を必要としないため、組織に酸素が十分に行き渡っていない場合にもエネルギー産生を行うことができるという点で優れています。
このように、ピルビン酸脱炭酸酵素は嫌気条件下においてピルビン酸をアルコール発酵によって代謝し、エネルギーを産生する解糖系を回転させるという重要な役割を果たしています。また、その反応自体はクエン酸回路にも不可欠のものであり、ピルビン酸の脱炭酸がエネルギー産生全体において不可欠な要素となっています。
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